ぽっちログ

新人かあさんぽっち 2歳児を育てる記録

地獄の遊戯となった小学4年生のプレゼント交換

今週のお題「クリスマス」

 

 

小学4年生の時、私は読書クラブに所属していた。

12人ほどの小さなクラブは図書室でひたすら本を読んで、気に入った本の紹介カードを作る活動をしていた。

そんな地味なクラブでもクリスマスになればそれらしい行事をする。

プレゼント交換である。

各々プレゼントを持ち寄って、音楽に合わせてプレゼントを隣へ隣へと回していく。

音楽が止まった時、手元にあったものが自分のものになる、あのプレゼント交換。

私はプレゼント交換が大好きだった。(今でも大好き)

プレゼントがもらえることよりも、音楽が鳴っている間のドキドキや、自分が用意したものが誰に当たってどんな顔をするのかその反応を見るのが好きだった。

「何が当たるだろう、自分が用意したものよりも良いものが当たるだろうか」という期待でいっぱいの状態から、開封した時の顔。

私が用意したプレゼントを見て、喜んでも、がっかりしてもいい。

表情が変わる瞬間が好きなので、相手が私のプレゼントをどう思っているかは問題ではなかった。

(でも正直、何をもらったのか分からなくて困惑している顔はかなり好きだった。)

だから読書クラブの担当の先生が「来週はプレゼント交換をするので、皆さんプレゼントを持ってきてください」と言った時、こっそりガッツポーズをした。

プレゼントは何にしようか、これが当たった人はどんな顔をするか、そればかりを考えて1週間プレゼント選びに情熱を注ぎ、ハギレを組み合わせてブックカバーを作成した。

 

 

ここでポイントとなるのが、小学生が用意するプレゼントの内容である。

もし大人がプレゼント交換をすることになったら、用意するプレゼントの予算が決められて、参加する人がだいたい損をしないような仕組みになると思う。

さらに常識のある人であれば、もらった人のことを考えて「無難なもの」を選ぶことが多いだろう。

しかし、小学生のプレゼント交換には予算が存在しない。

その上、相手への気遣いはあったりなかったり。

それ故、プレゼントには大当たりと大外れが発生する。

読書クラブのプレゼント交換ではその大当たりと大外れの差が顕著となった。

大当たりは6年生のお姉さんが家で焼いてきたクッキーの詰め合わせ。

クッキーは市松模様や絞り袋でくるっとまかれた美しい形をしており、さらに瓶にはキラキラにリボンまでかけられて、育ちの良さがそこにありありと現れていた。

誰がどう見ても、お姉さんのクッキーが大当たりであった。

先ほど私は「プレゼントがもらえることよりも他人の反応が楽しみ」という旨のことを言ったが、正直お姉さんのクッキーはめっちゃ欲しかった。

あとの子たちは手作りの押し花の栞や、家で使っていない文房具、当時はやっていた遊戯王の雑魚カード、読み終わった本などを用意していた。

ここらへんはまだプレゼント交換があることを覚えており、ちゃんと用意してきている。

悲しいかなプレゼントを用意するのを忘れていた子は、クラブ活動が始まる前に急いで折ったツルや手裏剣、パックマンをビニール袋に詰めてきていた。

失礼ではあるが、このような「数分で取り急ぎ用意したプレゼント」が通常のプレゼント交換ではハズレ扱いとなる。(もちろんプレゼント交換のために練習した渾身の折り紙作品は除く)

しかし、今回の読書クラブのプレゼント交換ではそれを遥かにしのぐ大外れが現れたのである。

 

 

クラブ活動が始まり、先生が「では皆さん、用意してきたプレゼントを机においてください」と言った。

図書室の円卓をぐるりと囲んだ読書クラブのメンバーが、自分の目の前にプレゼントを置いていく。

当然、一同の視線は6年生のお姉さんが用意したクッキーに集中する。

甘くていい匂いが漏れてきてたまらんお腹すいちゃう、と思っていると

ベタン

という異様な音がして、今度は全員が音のした方向を見た。

音の主は、私と同じクラスのマツザキ君のプレゼントであった。

マツザキ君の前には野球のボールほどの大きさに丸めた青緑色の油粘土があった。

油粘土。

クリスマス行事特有のキャッキャとした雰囲気が一瞬にして静まり、図書室に異様な空気が流れる。

いや、まさか、あれがプレゼント?

あれはどう見ても油粘土やけど、あれプレゼントなん?

全員がそう思っていたに違いない。

「ちょっとマツザキ君、きなさい」

気まずい空気を破ったのは先生の声だった。

先生はマツザキ君を図書室の隅に呼んだ。

きっとマツザキ君に「さすがに油粘土は困るから折り紙でツルでも作りなさい」と言っているに違いないと、私は内心ほっとした。

油粘土はマジでない……絶対いらない……世界一いらない……

しかし、帰ってきたマツザキ君の手にあったのは白い塊。

「それ、何」と彼にきくと、

「先生がプレゼントは包まないとだめっていうから、粘土をティッシュで巻いてきた。プレゼント持ってくるの忘れたけど、なんとかなってよかった」

とハニカミつつ、こっそり教えてくれた。

よくねぇよ。

信じられないことに、マツザキ君のプレゼントは油粘土であることが確定した。

しかもティッシュで包んだ油粘土の塊という稀な状態である。

これは今までかつてないほどの大外れであると確信した。

今日のプレゼント交換は中止にした方がいいんじゃないか、そう思ったけれども開始の音楽が鳴り始めた。

いつものプレゼント交換のようにキャッキャとした雰囲気はなく、小学生なのに私語がひとつも出ない重苦しいプレゼント交換であった。

音楽に合わせて隣へ隣へとプレゼントを送っていき、ついに自分の目の前に油粘土が回ってきた時の焦り。

頼む、音楽よ!今止まってくれるな!と息を止め、指先で今到着したばかりの油粘土を超特急で隣へ送る。

それを2~3回繰り返した時、音楽が止まった。

私は地獄の遊戯から解放されて胸をなでおろした。

油粘土は5年生のお兄さんの物となった。

お兄さんは油粘土をじっと見ていた。

眉間にしわをよせて、「お前、何でここで止まった」と困惑した顔であった。

私は自分のプレゼントが誰に当たってどんな顔をされるかを楽しみにしていたのに、マツザキ君の油粘土のせいで誰に当たったのか見ることすら忘れてしまった。

大外れの油粘土を持ってきたマツザキ君には折り紙作品の詰め合わせが当選していた。

それでいい。

マツザキ君に6年生のお姉さんのクッキーが当選していたら、私は本当に許せなかったであろう。

 

 

このプレゼント交換油粘土事件はクリスマスになるたびに思い出すし、なんならプレゼント選びのたびに思い出す。

ブログを始めた時にいつかは書こうと思っていたくらい、私の中では忘れられない出来事である。

 

ちなみに、翌年も私はクリスマス時期に読書クラブで先生も同じ人であったが、前年のことを組んでか、クリスマス行事はプレゼント交換ではなくイントロクイズであった。

大いに盛り上がった。